ケルティック・ウーマン『You raise me up』に思う
先主日は、当日の福音書箇所「宮清め」の「立て直す」と訳されたギリシャ語「エゲイロー」が英語では「raise~up」であり、この言葉から思い浮かべる曲『You raise me up』について言及しました。説教では時間の制約やテーマとの関連等からこの曲の歌詞の一部しか述べることができませんでした。今回はケルティック・ウーマンが歌った『You raise me up』全部の歌詞等について思い巡らしたいと思います。
この箇所のギリシャ語「エゲイロー」を聖書協会共同訳は「立て直す」と訳しましたが、新改訳2017では「よみがえらせる」とあり、よりイエス様の思いを反映した訳となっていました。
『You raise me up』を歌ったケルティック・ウーマン(Celtic Woman)は、アイルランド出身の女性で構成される4人組の音楽グループです。私が聞いたのは以下のケルティック・ウーマンのデビューアルバムからです。
このアルバムには、オリジナル曲の他、ダニー・ボーイ(ロンドンデリーの歌)やグノーの「アヴェ・マリア」、エンヤの「オリノコ・フロウ」、バッハの「主よ、人の望みの喜びよ」などが収録されていす。
前回のブログでは、トリノオリンピックにおける荒川静香のエキシビジョンの映像及び音声を紹介しましたが、今回はケルティック・ウーマンのコンサーーの様子を下のアドレスにアクセスしてご覧いただければと思います。野外の古城の前における可憐な彼女たちの姿を見ながら『You raise me up』の曲を楽しむことができます。
https://www.youtube.com/watch?v=Yfwlj0gba_k
ところで、「You Raise Me Up」という表現は、英語の聖書(NRSV)では詩編第41章10節において見ることができます。
「But you, O Lord, be gracious to me, and raise me up, that I may repay them. 」
日本語の聖書(聖書協会共同訳)では詩編第41章11節になります。
「しかし主よ、あなたは私を憐れみ 立ち上がらせてください。私は彼らに報います。」
これは、病の床にあるダビデが主なる神に祈った言葉です。
この祈りの中の「raise me up」(私を立ち上がらせてください)の部分が、曲名『You Raise Me Up』の由来と考えられます。
次に英語歌詞と和訳を示します。
When I am down and oh my soul, so weary
When troubles come and my heart burdened be
Then I am still and wait here in the silence
Until you come and sit a while with me
気持ちが沈んで 心も疲れたとき
困難に見舞われ 心に重荷を背負ったとき
私は静かに 静寂の中で待つ
あなたが隣に来て 座ってくれるまで
You raise me up so I can stand on mountains
You raise me up to walk on stormy seas
I am strong when I am on your shoulders
You raise me up to more than I can be.
あなたが私を立ち上がらせてくれる だから高い山にも立てる
あなたが私を立ち上がらせてくれる だから嵐の海も歩ける
私は強くなれる あなたの肩に身を預け
あなたが私を立ち上がらせてくれる だから私以上の私になれる
There is no life no life without its hunger
Each restless heart beats so imperfectly
But then you come and I am filled with wonder
Sometimes I think I glimpse eternity
飢えない命はない
心臓は休むことなく とても不完全に鼓動する
しかし、あなたが現れ 私は驚きで満たされる
時々私は思う 永遠を垣間見ていると
You raise me up so I can stand on mountains
You raise me up to walk on stormy seas
I am strong when I am on your shoulders
You raise me up to more than I can be.
あなたが私を立ち上がらせてくれる だから高い山にも立てる
あなたが私を立ち上がらせてくれる だから嵐の海も歩ける
私は強くなれる あなたの肩に身を預け
あなたが私を立ち上がらせてくれる だから私以上の私になれる
「so I can stand on mountains(だから高い山にも立てる)」は、イエス様が山の上で弟子たちと群衆に語った「山上の説教」の場面を連想させます。
また、「walk on stormy seas」(嵐の海の上を歩く)は、マタイによる福音書第14章22節以下の「イエス様が湖の上を歩く」の奇跡が関連しているように思われます(海も湖も原語は一緒です)。26節にこうあります。「the disciples saw him walking on the sea(弟子たちは、イエスが湖の上を歩いておられるのを見て)」
『You Raise Me Up』の曲では「あなたが私を立ち上がらせてくれる だから高い山にも立てる あなたが私を立ち上がらせてくれる だから嵐の海も歩ける」と繰り返し歌われます。私はここから復活のイエス・キリストと出会った人々のことを思い起こします。「よみがえられたイエス様が共にいてくださるから、私たちは高い山にも立てる、嵐の海も歩ける」と。復活のイエス様と出会ったマリアや弟子たちは、このような心境であったのではないでしょうか。更に歌詞はこう続きます。
「私は強くなれる あなたの肩に身を預け あなたが私を立ち上がらせてくれる だから私以上の私になれる」
イエス様の悲惨な死を目の当たりにし、絶望のただ中にいた人々は、復活した主イエス様との出会いによって、再び立ち上がりました。「よみがえられたイエス様が共にいてくださるから、私は強くなれる、これまでの私以上の私になれる。」そのような心境になったのではないでしょうか。『You Raise Me Up』を作詞した人も、これら聖書の描写にインスピレーションを受けていたように思うのです。
『You Raise Me Up』の曲の歌詞及びメロディーは、私には聖歌481番「この世の波風さわぎ」を連想させます。この曲の作詩は松平惟太郎司祭、曲はロンドンデリーの歌です。
歌詞はこうです。
『1この世の波風さわぎ いざない しげきときも
悲しみ嘆きの嵐 胸に すさぶときにも
み前に集い祈れば 悩み去り うきは消ゆ
いざともに たたえ歌わん 恵み深き 主のみ名
2ひとつの望みに生くる はらから(兄弟姉妹) 共に集い
互いに仕え 睦めば 世になき やすき満ちて
天なる喜びあふる うるわし 神の群れよ
いざともに たたえ歌わん 恵み深き 主のみ名』
聖歌481番は次のアドレスで聞くことができます。
https://www.youtube.com/watch?v=JY2uKbBvZHs
ほんとによく似ています。原曲と言っていいほどです。アイルランド民謡のメロディーはなんともノスタルジアを感じさせ、親しみ易いものです。荒川静香もそのように考え、『You Raise Me Up』をトリノオリンピックのエキシビションで選曲したのかもしれません。
冒頭述べましたように題名の「You Raise Me Up」は、詩編第41章10(11)節の病の床にあるダビデが主なる神に祈った言葉です。
私たちも病や苦しみ、どうしようもない困難の中にあるとき「raise me up」(私を立ち上がらせてください)と神に祈りたいと思います。聖歌481番のように「み前に集い祈れば 悩み去り うきは消ゆ」です。
「よみがえられたイエス様が共にいてくださるから、私は強くなれる、これまでの私以上の私になれる。」のであります。