オーガスチンとマルコの家

勤務している高崎聖オーガスチン教会や新町聖マルコ教会の情報やキリスト教文化や信仰などの話題を掲載します。

「ジョーン・バエズの音楽と信仰(2)」

 前回、「ジョーン・バエズの音楽と信仰」のタイトルで、特に彼女の日本での最初のヒット曲「ドンナ・ドンナ」にスポットを当てて、彼女の音楽の特質と信仰について論を進めました。今回は1963年のキング牧師のワシントン大行進のおりにジョーン・バエズが歌い、それ以降も折に触れて歌ってきたゴスペルナンバー「勝利を我らに(We shall overcome)」を取り上げたいと思います。ジョーン・バエズの「勝利を我らに」はここのYoutube で聞く(見る)ことができます。ウッドストックでのライブです。
https://www.youtube.com/watch?v=pj_9KshfQuw

 私の持っている彼女のベスト盤のLPレコードではA面の1曲目が「ドンナ・ドンナ」で、B面の最後が「勝利を我らに」でした。

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 このレコードでは3番まで歌っています。
1We shall overcome, We shall overcome
  We shall overcome, someday
  Oh deep in my heart I do believe
  That we shall overcome someday
2We'll walk hand in hand, We'll walk hand in hand,
  We'll walk hand in hand someday;
  Oh, deep in my heart, I do believe,
  That we shall overcome someday.
3We are not afraid, We are not afraid,
  We are not afraid today;
  Oh, deep in my heart, I do believe,
  That we shall overcome someday.

  訳してみます。
1 我らは打ち勝つのだ、 我らは打ち勝つのだ
  我らは打ち勝つのだ、いつの日か
   ああ、心の奥深くで信じている
  我らが打ち勝つということを
2 我らは手に手を取って歩くだろう、我らは手に手を取って歩くだろう
   いつの日か手に手を取って歩くだろう
   ああ、心の奥深くで信じている
  我らが打ち勝つということを
3 我らは恐れない、我らは恐れない
  今日は我らは恐れない
   ああ、心の奥深くで信じている
  我らが打ち勝つということを

 ウッドストックのライブでは、この歌詞の他、We shall be all right やWe shall live in peace、Oh Lordの歌詞を加えて歌っていました。

4We shall live in peace, We shall live in peace,
  We shall live in peace someday;
  Oh, deep in my heart, I do believe,
 That we shall overcome someday
  我らは平和の中に生きるのだ、我らは平和の中に生きるのだ
  いつの日か平和の中で生きるのだ
  ああ、心の奥深くで信じている
  我らが打ち勝つということを 

「勝利を我らに」(We shall overcome)はピート・シーガーにより紹介されましたが、メロデイ―も歌詞も時々の状況に応じて追加・変更されて数多くのバージョンが生まれました。ウッドストックジョーン・バエズがOh Lord を叫んだ背景には、次のバージョンの歌詞があったかもしれません。

5The Lord will see us through, The Lord will see us through,
  The Lord will see us through someday;
  Oh, deep in my heart, I do believe,
  That we shall overcome someday.  
 主が我らを導いてくださる 主が我らを導いてくださる、
 いつの日か主が我らを導いてくださる
  ああ、心の奥深くで信じている
 我らが打ち勝つということを

 「勝利を我らに(We shall overcome)」はジョーン・バエズにより、1963年8月28日のワシントン大行進で歌われたことで公民権運動を象徴する歌となりました。歌の由来にはさまざまな議論がありますが、ネットで調べるとこうありました。
『1940年代の終わりごろ、フォーク歌手でありシンガー・ライターでもあるピート・シーガーが、“ハイランダー・フォーク・スクール”というアフリカ系アメリカ人や労働者、農民に連帯・自己決定の力量を育てる目的で設立された学校の設立者の妻から“We'll overcome someday”を教わった。ピート・シンガーは“We will”を“We shall”に変えた。「我々は必ず勝利するぞ!」といった感じで、shallはwillよりも強い意志・決意を意味するからである。公民権運動の指導者キング牧師がこの歌を知ったのは“ハイランダー・フォーク・スクール”の設立25周年記念日(1957年)であった。1963年、20万人が集まったキング牧師が先頭に立ったワシントン大行進で公民権運動や非暴力に心酔していたジョーン・バエズは“We shall overcome someday”を歌い、その後、この歌はバエズの代表的な歌の一つとなった。』

 2020年の今、世界各地で起きているBlack Lives Matter(黒人の命は大切)の運動も、「勝利を我らに(We shall overcome)」の精神と共通するものと考えます。社会運動と音楽の関係は深く、1963年8月28日のワシントン大行進の際にはジョーン・バエズの他ボブ・ディランPPM(ピーター・ポール&マリー)などのミュージシャンも参加していました。

「勝利を我らに(We shall overcome)」は讃美歌第2編164番、さらに讃美歌21でも471番として歌われています(聖公会の聖歌では公式には採用されませんでした)。
 讃美歌21-471の歌詞はこうです。
1 勝利をのぞみ 勇んで進もう、大地ふみしめて。
   ああ、その日を信じて われらは進もう。
2 恐れをすてて 勇んで進もう、闇に満ちた今日も。
   ああ、その日を信じて われらは進もう。
3 手をたずさえて 歩もう共に、勝利のときまで。
   ああ、その日を信じて われらは進もう。
4 平和と自由 主はいつの日か、与えてくださる。
   ああ、その日を信じて われらは進もう。

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 讃美歌21略解にはこうあります。
アメリカの公民権運動のテーマソングのように歌われた歌ですが、その原形についてはいろいろな説があります。歌詞については1901年にアルバート・テインドレイ(C.Albert.Tindley)によって作られたゴスペルソングの“I'll overcome someday”の一部を転用し、そこから発展させたものではないかという説がありますが、これは詞形と拍子が違うことで無理があります。(中略)いずれにしても1940年代になってこの歌は口伝で広がりアフリカ系アメリカ人の労働条件改善のストライキや人種差別撤廃運動などで歌われました。』 

 この歌詞は、誰かを非難したり攻撃したりしていません。そこがキング牧師の非暴力主義と合致して多くの人の共感を得たのだと思います。私には信仰を持って神の国を目指して共に進もうという歌詞に聞こえます。
 ジョーン・バエズは前回紹介した彼女の「自伝」で、「私はキング牧師の話を聞くのが大好きだ。彼がある時、彼がしなければならないことは非暴力主義をいうことだけだ、と言ったので私は彼の信者になったのだ。私の一番のアイドルはマ-ティン・ルーサー・キング、二番はピート・シーガーだ。」と記しています。ジョーン・バエズは非暴力主義を信奉し、キング牧師を特別に愛していました。その彼女が繰り返し歌ったのが「勝利を我らに(We shall overcome)」です。
 「We shall overcome」の"overcome"は「打ち勝つ」という意味ですが、私はこの言葉から「ヨハネの手紙一5:4~5」の御言葉を思い浮かべます。
「神から生まれた人は皆、世に打ち勝つからです。世に打ち勝つ勝利、それはわたしたちの信仰です。だれが世に打ち勝つか。イエスが神の子であると信じる者ではありませんか。」
(For everyone born of God overcomes the world. This is the victory that has overcome the world, even our faith. Who is it that overcomes the world? Only the one who believes that Jesus is the Son of God.)
 私たちは世に打ち勝つことができます。しかし、それは自分の力によるのではありません。主イエス様によって、そして主を信じる信仰によって、打ち勝つのであります。
 
 ジョーン・バエズ反戦歌やプロテストソングの他、「アメイジング・グレース」や「オー・ハッピー・デイ」」など多くのゴスペルナンバーを歌ってきました。その中に「クンバイヤ」という歌があります。「クンバイヤ」は西インド諸島の言葉で「主よ、ここに来て下さい」という意味です。ジョーン・バエズは音楽を通して、真に世に打ち勝つことのできる主を求める信仰を持ちつづけました。私はそう思います。