「聖歌第58番とバッハのカンタータ第140番」
先主日の礼拝の入堂聖歌は高崎も新町も第58番「起きよ、夜は明けぬ」でした。この聖歌はバッハのカンタータ第140番『目覚めよと呼ぶ声あり』に取り入れられています。バッハは「聖書の音楽家」と言われ、音楽で福音を伝えることを自分の使命と考えていました。
カンタータ第140番『目覚めよと呼ぶ声あり』は、当時のルター派の教会暦で三位一体節後の第27日曜日のために書かれたもので、バッハがライプツィヒ在任中、1731年11月25日の礼拝のために作曲された、バッハ46歳の時の作品です。原語タイトルの「Wachet auf, ruft uns die Stimme」は『目覚めよと呼ぶ声が聞こえ』、『目覚めよ、とわれらに呼ばわる物見らの声と呼ぶ声あり』とも表記されます。英語では『Sleepers, Wake』です。
下のアドレスのyoutube で全曲を聴くことができます。
https://www.youtube.com/watch?v=ldRUt5tU9A0&feature=youtu.be
カンタータは器楽伴奏の付いた声楽作品のことですが、この作品は礼拝のために書かれたコラール(讃美歌)を取り入れた教会カンタータです。
このコラールは元々フィリップ・ニコライというドイツの牧師が作曲したもので、カンタータの第1曲、第4曲、第7曲に使われています。それが先主日で歌われた聖歌第58番「起きよ、夜は明けぬ」です。多少歌詞の違うところもありますが、讃美歌174番としても親しまれています。
聖歌第58番の歌詞はこうです。
1 起きよ、夜は明けぬ、夜警(ものみ)らは叫べり、起きよ、エルサレム。
おとめら、目覚めよ、花婿(はなむこ)は来ませり、目覚めて迎えよ。
栄えの主は 降(くだ)りましぬ、ハレルヤ。
ともしびかかげて いざ迎えまつれ。
2 喜びあふるる 夜警らの叫びに、おとめらは覚めぬ。
栄えに輝く 主の降(くだ)りたまえば、光は射し出ぬ。
主よ、今こそ 共にまして、ハレルヤ。
われらを宴に いざ 着かせたまえ。
3 天地(あめつち)こぞりて 竪琴ならしつつ 主をたたえまつれ
主のみ座めぐりて ほめうたを歌える み使いと共に。
待ちに待ちし 主は来ませり ハレルヤ、
栄(は)えあるほめ歌 いざ 共にうたわん。
聖書の箇所は先主日のマタイ25:1-13に記された「10人の乙女のたとえ」です。それはこんな話です。10人の乙女は灯火を持って花婿を迎えますが、到着が遅れ皆眠り込んでしまいます。到着を知らせる声に目覚めた5人の賢い乙女たちはすぐに灯火を整えますが、5人の愚かな乙女は油の用意をしていませんでした。彼女らが油を買いに行っている間に花婿は到着し、この5人は婚宴の席から閉め出されたのでした。
このカンタータの歌詞は以下のようです。私はドイツ語が分かりませんので、日本語訳のみを掲載します。
1. 合唱
目覚めよ、とそびえ立つ高楼から
見張りの呼ぶ声がする。
目覚めよ、エルサレムの町よ!
時は、夜。
彼らは高らかに呼びかけている。
賢いおとめたちよ、何処にいる?
急ぎなさい、花婿がおいでになる。
立ち上がり、灯火を取れ!
アレルヤ!
婚礼に備えよ。
花婿を迎えにゆくのだ!
2. レチタティーヴォ
彼が来られる、彼が来られる。
花婿がおいでになる!
シオンの娘たちよ、出ておいで。
彼は天より下り、
おまえたちの母の家に急いでおられる。
花婿がおいでになる。
カモシカのように、雄鹿のように、
丘を飛び越え、
婚礼の食事を持って来られる。
目覚めなさい、勇気を出して!
花婿を迎えなさい!
ご覧、そこに彼が来ておられる。
3. アリア(二重唱) S:魂 B:イエス
S: いつおいでになるのですか、私の救いよ。
B: 私は、おまえのもとへ行く。
S: 灯火を手に、お待ちしています。
S: 広間を開いてください。
B: 広間を開こう。天の宴に向けて。
S: イエスよ、来てください!
B: おいで、いとしい魂よ!
4. コラール
シオンは見張りの歌声を聴き、
その心は喜びに湧き立ち、
目覚め、急いで起き上がる。
いとしい方が、麗しき姿で天より下られる。
その方は憐れみに満ち、その誠は力強い。
シオンの光は明るく、その星は高みへ昇る。
ホサンナ!
さあおいでください、尊い王様、
主イエス、神の御子よ!
私たちは皆、喜びの広間へ従い、
晩餐を共にいたします。
5. レチタティーヴォ
さあ、私のもとへおいで、
私のために選ばれた花嫁よ!
おまえと私は
永遠の絆で結ばれている。
おまえを私の胸に、私の腕に、
印として刻もう。
そうして、おまえの悲しげな瞳を癒そう。
おお魂よ、今こそ
耐え忍ばねばならなかった
恐れや痛みを忘れるがよい。
私の左に、おまえは憩い、
私の右は、おまえに口づけするのだ。
6. アリア(二重唱) S:魂 B:イエス
S: 私のいとしい方は、私のもの。
B: そして、私は彼のもの。
S+B: その愛は、決して引き裂かれない。
あなたと共に、天のバラの園で憩いたいのです。
B: おまえと共に、天のバラの園で憩おう。
そこは喜びにあふれ、至福に満ちている。
7. コラール
栄光、神にあれと歌おう。
人々と天使が声を合わせ、
琴とシンバルを持って。
十二の門は十二の真珠で飾られ、
町は我々の仲間にあふれ、
天使は高く、あなたの玉座を取り囲む。
誰も見たことのない、
誰も聞いたことのない、
それほどの喜び。
その喜びに、我々は歓声をあげる。
イオー、イオー。
とこしえに、甘き喜びのうちに。
こんな作品です。
第1曲 コラールが歌い出されます。コラールの歌詞は3節ずつ一組となったものが4つあり、合わせて12節となります。12という数字は3(神の象徴数)×4(人間の象徴数)で、完全性と神と人の合一を現すといわれています。「目覚めよ」との言葉から分かるように、人間には隠されているものがある、という気配が漂い、何か神秘的なことが語られる、という予感がします。
第2曲 テノールの、躍動感溢れるレシタティーヴォによって、花婿の到来が告げられます。
第3曲 「魂」と「イエス」が対話します。ヴィルトゥオーゾの音型に終始するヴァイオリン・パートは、油を燃やして灯火とし、ひたすらにイエスを待ち望む乙女の、慎み深くも熱い思いが描かれています。
第4曲 3声の弦(2声部のヴァイオリンとヴィオラ)が一本の旋律を奏で、テノールと通奏低音によって、コラールの第二詩節が歌われます。シオン(信ずる者たちの群れ)は花婿イエスの到来をはっきりと知ります。
第5曲 イエスは、これまで数々の悲しみに涙し、耐えに耐えた心で待ちに待ったイエスを迎えた「魂」を慰めます。
第6曲 オーボエと Sop.(魂)と B(イエス)によって魂の合一の喜びが歌われます。地上の愛とは異なり、消えること、絶えることのないイエスとの神秘的な愛を歌った二重唱として、この曲もまた長い生命の中で振動を続けています。
第7曲 終曲のコラール、第三詩節では、人と天使が共にグローリアと歌い、未だかつて体験した事のない喜びであるとの表現があります。バッハの組み合わせたこの和声の響きは、2分音符を単位として進み、各声部の倍音が天地宇宙に広がって行くような壮大な響きとなります。喜びの表現として歌われる io, io という二つの母音は左右に広がるi と天地をつなぐo によって、神と人、人と人の融和が示されます。
この曲の合唱(コラール)は荘厳で、二重唱は、まるでおしゃべりをしているように聞こえます。
それはこの本の題名「神には栄光 人の心に喜び~J.S.バッハ その信仰と音楽」のようです。
この本の中に「彼は自分の楽譜の初めに”Jesu Juva” (イエスよ、助けてください)、 最後に”Soli Deo Gloria”(神のみに栄光を)と書き記した」とあります。
バッハの音楽の秘密、それはイエス様に助けを願い、神の栄光のために作曲をしたということだと思いました。
聖歌第58番「起きよ、夜は明けぬ」からカンタータ第140番が生まれた背景にも、このバッハの信仰があったのです。