オーガスチンとマルコの家

勤務している高崎聖オーガスチン教会や新町聖マルコ教会の情報やキリスト教文化や信仰などの話題を掲載します。

「プレスリーとゴスペル(2)」

 前回、ロックンロールの王様、エルヴィス・プレスリーが敬虔なクリスチャンで、ゴスペル・ミュージックに献身的な情熱を捧げたことを記しましたが、そのことに関して、彼の死後25周年を記念し制作(02年3月)されたDVDがあります。それが「エルヴィス・プレスリーゴスペル・ミュージック」です。2枚組3時間にわたって、当時の映像や関係者の証言などが収められています。いかにエルヴィスがゴスペルソングに力を入れていたか、またそれにより癒やしや救いを得ていたかがよく分かるDVDです。

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 さて、前回の続きで言えば、母を亡くしたエルヴィスは1958年~1960年、兵役に服しました。その後は、マネージャーのパーカー大佐による「9年間の映画契約」等により映画出演が中心になりました。

 その間の特筆すべき出来事は1966年5月に「偉大なるかな神 HOW GREAT THOU ART」というゴスペル・アルバムを録音・制作したことです。映画のサウンドトラック以外の曲でレコーディングを行うのは28か月ぶりでした。エルヴィスはこれにより自分の音楽的ルーツの確認と自分の音楽の新しい方向を探りました。30歳を過ぎたエルヴィスは、ますます熱心に聖書を読み、神の真理と自己存在の意義について探求していた時期でした。
 本作は1960年の『心のふるさと』に続く、ゴスペル・アルバム第2弾であり、翌1967年3月にリリースされ、プラチナ・ディスク(100万枚以上)と初のグラミー賞“Best Sacred Performance”を獲得しました。

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 このアルバムの1曲目がタイトルナンバー「偉大なるかな神 How Great Thou Art」です。下のアドレスから音源を聞くことができます。
   https://www.youtube.com/watch?v=YkJVQN9pK1k
 
 初期の「ハウンド・ドッグ」や「監獄ロック」などとは全く違う、穏やかでスピリチュアリティあふれる歌唱・サウンドです。

 アルバムのライナーノーツにある詩と訳はこうです。

“How Great Thou Art”

 O Lord my God, When I in awesome wonder,
 Consider all the worlds Thy Hands have made;
 I see the stars, I hear the rolling thunder,
 Thy power throughout the universe displayed.

(When Christ shall come,
 with shout of acclamation,
 And take me home,
 what joy shall fill my heart.)

 Then I shall bow, in humble adoration,
 And then proclaim: "My God, how great Thou art!"
 Then sings my soul, My Saviour God, to Thee,
 How great Thou art, How great Thou art.
 Then sings my soul, My Saviour God, to Thee,
 How great Thou art, How great Thou art!

「偉大なるかな神」

 おお、主なるわが神 われは畏怖と驚嘆をもって
 あなたの御手の創造し給う森羅万象を眺めん
 われは星を見 雷鳴の轟きを聞き
 あなたの御力か全宇宙に顕れるのを見る

 (キリストか再びこの世に来たり給う時
 主が高らかな歓呼に迎えられて来たり給いて
 われを故郷に導き給う時
 わか心はいかなる喜びで満たされることか)

 その時われはひれ伏し崇めて おお、わか神よ
 あなたか如何に偉大なる御方かを誉め歌わん
 わが魂は救い、主なる神に向かいて歌う
 偉大なるかなわか神
 偉大なるかなわが神
 わが魂は救い主なる神に向かいて歌う
 偉大なるかなわが神 偉大なるかなわが神

 エルヴィスはすべてのものを創造された父なる神を、崇め讃えています。また、バックグループの男声コーラスが再臨のキリストにより天の故郷である御国に導かれる喜びを歌っています。

 この曲は聖公会の聖歌にはありませんが、福音派の人たちが使用している「聖歌」の480番、また「讃美歌21」の226番である「輝く日をあおぐ時」です。日本でのビリー・グラハム国際大会で聖歌隊によって歌われて有名になりました。歌詞(中田羽後訳)はこのようです。

 輝く日をあおぐ時 月星ながむる時
 いかずち鳴り渡る時 まことの御神を思う
(おりかえし)
 我が魂(たま) いざたたえよ 大いなる御神を
 我が魂(たま) いざたたえよ 大いなる御神を
 
 森にて鳥の音を聞き そびゆる山に登り
 谷間の流れの声に まことの御神を思う
(おりかえし)
 
 御神は世人を愛し ひとりの御子をくだし
 世人の救いのために 十字架にかからせたり
(おりかえし)

 天地造りし神は 人をも造り替えて
 正しく清き魂 持つ身とならしめ給う
(おりかえし)

 この曲は多くの福音歌手(レーナ・マリア、上野直子等)も歌っています。エルヴィスのゴスペルソングは、今につながるコンテンポラリー・クリスチャン・ミュージック(CCM)のはしりとも言えます。
 このアルバムには、彼が幼い頃から親しんできたゴスペルのスタンダードやブラック・ゴスペルが収められています。聞いているうちに自然と心が穏やかになり癒やされていきます。

 前回紹介した『エルヴィスの真実~ゴスペルを愛したプレスリー~』にこうあります。
「ゴスペルは、エルヴィスが誕生したときから、彼のうちに刻まれ、その生涯を通し、音楽的、感情的、霊的な休息を得るため、彼が繰り返し戻っていく大切な「場所」であったのです。辛く苦しいとき彼を支えたのがゴスペルでした。ゴスペルこそが、彼を本来あるべき場所へと連れ戻すものでした。(P.28)」
 私たちにとっても、ゴスペル(福音)を聞くことは、本来あるべき場所(天の御国)を先取りして、そこへ導いてくださるものであると思います。エルヴィス・プレスリーはその機会を多くの人に与えたのでした。