オーガスチンとマルコの家

勤務している高崎聖オーガスチン教会や新町聖マルコ教会の情報やキリスト教文化や信仰などの話題を掲載します。

「ボブ・ディランの音楽と信仰(1)」

 先月、ボブ・ディランの8年振りとなる新しいアルバム『ラフ&ロウディ・ウェイズ』がリリースされました。スタジオ・アルバムとして39作目で、全10曲収録のCD2枚組の大作です。早速購入して聞いてみました。まるで文学作品のようで、79歳ながら創作意欲は全く衰えていませんでした。
 ボブ・ディランジョーン・バエズやピーター・ポール&マリー(PPM)らと共に1963年のキング牧師が主導したワシントン大行進で演奏しています。ディランは、これまで60年近くフォーク界・ポップス界をリードしてきました。ユダヤアメリカ人ですが、1970年代後半にキリスト教福音派に改宗したことが大きな話題となりました。今はユダヤ教に戻っていると言われています。しかし、それ以降もキリスト教的と思われる音楽を発表しています。
 これから複数回に渡って、ピーター・ポール&マリーに続いて「ボブ・ディランの音楽と信仰」について記したいと思います。
 今、彼の自伝を読んでいます。ボブ・ディランは2016年にノーベル文学賞を受賞していますが、この自伝も既成の枠に囚われない詩的な文章です。この本で、彼が影響を受けた音楽との出会いやレコーディングやコンサート時の裏話などを読むことができます。ディランは子供の頃はラジオをよく聞き、ジャズやビバップのレコードもよく聞いたことが記されています。ウディ・ガースリーのレコードを聴いた時の熱い思いも伝わってきます。

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 今回は、ボブ・ディランによる1962年の作品で、ピーター・ポール&マリーのカバーにより1963年8月に全米2位を記録した「風に吹かれて(Blowin' in the Wind)」を取り上げます。
 ディランの演奏はここで見る(聞く)ことができます。
https://www.youtube.com/watch?v=vWwgrjjIMXA&feature=youtu.be

 詩はこうです。
1How many roads must a man walk down
 Before you call him a man?
 How many seas must a white dove sail
 Before she sleeps in the sand?
 How many times must the cannon balls fly
 Before they're forever banned?
 The answer, my friend, is blowin' in the wind
 The answer is blowin' in the wind

2How many years can a mountain exist
 Before it's washed to the sea?
 How many years can some people exist
 Before they're allowed to be free?
 How many times can a man turn his head,
 And pretend that he just doesn't see?
 The answer, my friend, is blowin' in the wind
 The answer is blowin' in the wind

3How many times must a man look up
 Before he can see the sky?
 How many ears must one man have
 Before he can hear people cry?
 How many deaths will it take till he knows
 That too many people have died
 The answer, my friend, is blowin' in the wind
 The answer is blowin' in the wind

 訳してみます。
1どれだけ多くの道を歩めば
 人は人として認められるのか?
 どれだけ多くの海の上を飛べば
 白い鳩は砂浜の上で休めるのか?
 どれだけ多くの大砲の玉が飛んだら
 それらは禁止されるのか?
 友よ、答えは風に吹かれている
 答えは風の中に舞っている

2山は海に流されるまで
 何年存在できるのか?
 ある人々が自由を許されるまで
 どれくらいかかるのか?
 人はどれぐらい顔を背けて
 知らない振りをするのか?
 友よ、答えは風に吹かれている
 答えは風の中に舞っている

3どれだけたくさん空を見上げれば
 空が見えるのか?
 どれだけ多くの耳を持てば
 人々の泣く声が聞こえるのか?
 どれだけ多くの死者が出れば
 余りにも多くの人々が死んでしまったと気が付くのか?
 友よ、答えは風に吹かれている
 答えは風の中に舞っている

 この詩についてウィキペディアによると、『1962年4月、友人たちと長時間黒人の公民権運動について討論したはてに生まれ、「10分で書いた。古い霊歌に言葉を当てはめたんだ。多分カーター・ファミリーのレコードか何かで覚えたものだと思う。これがフォーク・ミュージックのいつものやり方だ。すでに与えられているものを使うんだ。」とディラン本人は述べている』とありました。
 ディラン自身はこの詩について「こういう意味である」とは言っておらず、多くの人が様々な解釈をしています。以下は、音楽好きな聖職である私個人が思い巡らしたものです。

 1節にある「白い鳩」は白人と考えられ、この当時、黒人が白人たちとビーチの砂の上で寝ることはなく、いつそれが現実になるのか、と歌っていると考えられます。ちなみに鳩は平和の象徴です。それは「創世記」のノアの洪水の物語に由来します。8章8~12節に、洪水がひいてオリーブの枝をくわえて箱舟に戻ってきた鳩によって神の罰である洪水が終わったことを知る話があります。このため、鳩は、神と人間の和解のシンボル、人間が神との和解によって得た平和な世界を共に築いていく平和を象徴するものとなりました。
 2節の「山」は人間社会の偏見、「海」は人々の偏見を洗い流す良心、自由を許されない人々は黒人と考えられ、社会の矛盾に気づきながらそれを知らないふりする人々を糾弾しています。
 3節の話者は白人、彼等は白人の背に隠され空さえ見上げられず、人々の泣き声を無視する白人であり、大勢の人々の死に耳を塞ぐのも白人と考えられます。
 この歌で歌われる「風」とは時代でもありますが、「風」は聖書の世界においてはヘブライ語でルーアッハ、ギリシャ語でプネウマ、つまり「神の息、聖霊」を意味します。一般的にはディランは「黒人が人間かどうかという答えは風が教えてくれるくらい当たり前のことだ」と歌っていると考えられているようですが、私には「すべての答えを与えてくださるのは神であり、何事も聖霊が導いてくださる」と言っているように思えます。3人の聖人の名前を冠するピーター・ポール&マリーがいち早くこの曲をカバーしたのは、その神への信頼、信仰のゆえであり、この曲によって「風である神の息、聖霊にすべてを委ねるよう勧めている」と私は思うのであります。